古代ローマの新しいゲーム Neue Spiele im alten Rom / 法廷 Tribunal

©Reiner Knizia, 2002
This is an excerpt from "Neue Spiele im alten Rom - Japanese Edition (ISBN4-9901416-0-1)" published by us (Late Toccobushi Game Club / SAWADA Taiju) under the license of Dr. Reiner Knizia.

4-7人用/60分

ローマにおいて感情を呼び起こすものといえば、大規模な公判手続きに匹敵するものは他にありません。著名な人物の告発や弁護を手がければ、雄弁家として誉れを得ることができました。法は無償の弁護を規定していたのですが、このような法的責務の持つ金銭的利益は見落とされませんでした。最も高潔な人々の間ですら、贈り物や賄賂は珍しいものではなかったのです。

「法廷」は、裁判愛好者のためのゲームです。この本の中でも特に大規模なゲームであり、一定のゲーム経験を前提としています。

このゲームは我々を公判手続きの舞台に誘います。各プレイヤーは始めに、様々な集団に属している、刑事被告人を表すカードを受け取ります。毎ラウンド、ひとつの集団の有罪または無罪が決定されます。プレイヤーは順番に、弁論を行ったり金銭の支払いを申し出たりして、依頼人の支援を行います。自分の被告を無罪にした者は、たくさんの贈り物を受け取れるのです。逆に有罪となれば、司法から科料を命ぜられます。最も金銭を得たプレイヤーが勝利となります。

用具

ゲーム盤に加えて、五色それぞれ3から7まで及び10のカードを使います。また、五色それぞれのポーンひとつずつと、それに黒のポーンもひとつ必要です。

プレイヤーが四人しかいない場合は、四色しか使いません。紫のカードとポーンはゲームから外します。

加えて、人数分の青と赤のカウンター、さらにもう一つ追加で青のカウンターが必要になります。青のカウンターは票決カウンターと呼ばれ、赤のカウンターは追加カウンターと呼びます。最後に、チップがいくらか必要です。

準備

ゲーム盤を広げます。盤の中央に、二皿の秤があることが確認できるでしょう。片方の皿には「有罪(schuldig)」と、もう片方には「無罪 (unschuldig)」と書かれています。五色のポーンと(青色の)票決カウンター一個を、盤の上辺の"Iustitia"(ユスティティア:ローマ神話における正義の女神)と書かれた場所に置きます。

どのプレイヤーも、それぞれ(青色の)票決カウンターと(赤色の)追加カウンターを一個ずつ受け取ります。さらに、各プレイヤーは初期資産としてチップ20(額面20相当のチップ)を受け取ります。残りのチップで銀行を形成します。

カードをシャッフルして、各プレイヤーに四枚ずつ配ります。プレイヤーを一人選び、そのプレイヤーには追加で二枚のカードを配ります。このプレイヤーは六枚の中から二枚選び、左隣のプレイヤーに裏を向けて渡さなければいけません。これを承けて手札が六枚となったプレイヤーも、同じ手順を繰り返します。手札を二枚交換する機会が一巡りするまでこれを続けます。最後に残った二枚のカードは、余りのカードと一緒に伏せて脇に置きます。

この時点で各プレイヤーは四枚ずつカードを持っていますが、これはゲームの終わりまで持ち続けます。3から7までの数字のカードは、プレイヤーが弁護しなければならない依頼人を示します。10のカードを持っているプレイヤーは、その色に対する訴追者になります。

ゲームの流れ

各プレイヤーは、自分の持っている3から7までの数字カードに対応する色が無罪を獲得できるように働きます。弁護が成功すれば報酬のチップが与えられますが、有罪の採決は損失を生みます。プレイヤーが10のカードを持っていたら、全ては逆になります。この場合、持っている10のカードに対応する色に有罪判決が出るよう働くことになり、評決が黒となれば報酬を受け取れます。

ゲームは個々の裁判を連戦していくことによって成り立っています。各裁判の議長はそれぞれ異なるプレイヤーが務めます。最初の裁判の議長を務めるプレイヤーを選びます。それ以降は、議長の座を時計回りに交代していきます。進行中の審理の議長を務めるプレイヤーの前に、黒のポーンを置いておきます。

議長は裁判を司り、議論のひとつひとつが適切な時間内で収まるよう、場の秩序を維持します。各裁判は五つの段階によって構成されます。

一、色の選択

どの色を裁判に掛けるか、議長がひとつ選びます。主張をしたりチップを払ったりして、議長の選択に他のプレイヤーが影響を及ぼしても構いません。議長は"Iustitia"の場所に置かれているどのポーンでも選ぶことができます。議長がポーンを秤の中央の円のところに置き、手を離したら、色の選択は確定となり、覆すことができなくなります。

二、一般投票

裁判の始めに、告発を受けた集団、つまりは先ほど選択された色のことですが、この集団の有罪無罪をめぐる一般投票を行います。プレイヤーはそれぞれ票決カウンターを両手で握ります。片方の手で拳をつくり、その拳を中央に出します。そして、全員の拳を一斉に開きます。

拳の中に票決カウンターを握っていたプレイヤーは、有罪の投票をしたことになります。拳の中が空であれば、無罪に投票したことになります。この投票が実施されるより前の段階では、議論を行うことは許されません。

投票でどちらが多数派だったかに応じて、開始時点で"Iustitia"の場所に置かれていた票決カウンターを、「有罪」あるいは「無罪」の皿に動かします。有罪無罪が同数だった場合は、"Iustitia"の場所に置いたままにします。

投票が全員一致であった場合、あるいは六人ゲームや七人ゲームにおいては少数派の票が一票しかなかった場合は、一般投票が以降の審理を全て先取りしてしまうことになります。有罪あるいは無罪はこの時点で決定となってしまい、これ以上の審理は不要になります。

しかし普通はそういうことにはならず、裁判は続行されます。

三、弁論の順序

裁判が一般投票で結審しなかった場合、プレイヤーはそれぞれ弁論を行います。各プレイヤーの弁論を行う順序を時計回りにするか反時計回りにするかを議長が決定します。議長の弁論が最後になるように、議長の隣のプレイヤーから弁論を行います。

ここでもまた、議論とかチップの支払いによって、議長の決定に影響を与えることができます。議長は自らの決定を、黒のポーンを自分の右か左かに置きそして手を離すことによって示します。この時点で、決定を覆すことができなくなります。

四、弁論の遂行

定められた順番に従って、それぞれのプレイヤーが弁論を行います。弁論とは、自分の票決カウンターを「有罪」または「無罪」の皿に置くことを指します。

裁判におけるこの段階が、ゲームの肝になります。プレイヤーは自分の弁論の手番に、自らの弁論について他のプレイヤーと議論することができますし、また良くできた議論であるとかチップの支払いによって弁論を左右されても構いません。自らの票決カウンターを片方の皿に入れそして手を離した瞬間に、プレイヤーの弁論は確定となり覆せなくなります。

票決カウンターをいずれかの皿に置く代わりに、まだ弁論を行っていない別のプレイヤーに自らのカウンターを譲り渡しても構いません。これは、弁論を行う権利を後続の他のプレイヤーに委譲することを意味します。多くの場合は、弁論の権利を引き渡す前にチップのやりとりが行われるでしょう。カウンターを手渡した時点で、手番は終了となります。

各プレイヤーはゲーム全体を通じてそれぞれ一度だけ、自分の追加カウンターを使用できます。追加カウンターは自分の手番中、まだ票決カウンターを置く前にのみ使用できます。

そのような状況であれば、プレイヤーは自分の追加カウンターを、どちらかの皿に入れることができます。追加カウンターは通常の票決カウンターと同じように数えます。裁判が終わったら、使用した追加カウンターはゲームから取り除かれます。

あるいは追加カウンターを他のプレイヤーに、通常はチップを見返りにして、渡してしまっても構いません。

プレイヤーは弁論を行う際、所有しているカウンター全部を使用できます。票決カウンターを二個以上自分の管理下に置いている場合は、その全てを使用しなければいけません。使用するというのはつまり、皿に入れるか、一部または全部を後ろのプレイヤーに渡すかです。票決カウンターを後の裁判のために取っておくことはできません。

繰り返しになりますが、いま弁論を行っているプレイヤーだけが、カウンターを秤に置いたりカウンターを他のプレイヤーに渡したりできるのです。自分の持っている最後の票決カウンターを置いた瞬間に、プレイヤーの手番は終了となります。他のプレイヤーは票決カウンターや追加カウンターを動かしてはいけません。ですがチップの支払いを申し出ることはできます。

申し出たチップは、弁論の終了後直ちに支払わなければいけません。それ以外の約束事に拘束力はありません。ローマの弁護士はたいへん「柔軟」でした。"Caveat emptor!"(買い主は注意せよ)とローマ人が述べたのは、理由のないことではないのです。

五、評決

全てのプレイヤーが弁論を行ったら、両方の皿について票決カウンターと追加カウンターの数を数えます。より多くのカウンターが置かれている皿によって、最終的に告発を受けた色に有罪または無罪の評決が下されます。評決が下された色に対応するポーンを、下された票決の皿の下方に用意されている場所に置き、ゲーム終了までそのままにしておきます。

どちらの皿にも同じ数のカウンターが入っていた場合、ポーンは再び裁判に掛けられ得る "Iustitia" の場所に戻されます。

皿に載っている追加カウンターは全てゲームから取り除きます。プレイヤーはそれぞれ再び票決カウンターを一個ずつ受け取ります。残った票決カウンターは、 "Iustitia" の場所に戻されます。そして、黒のポーンを時計回りに、次の議長のところに移動させます。新たな裁判を始めます。

ゲームの終了と精算

ゲームは全てのプレイヤーが一度ずつ裁判の議長を務めた後に終了となりますが、あるいはもっと早く、全ての色に有罪判決なり無罪判決なりが下された場合も終了します。

ここで全プレイヤーは自分の手札を公開し、そして精算を行います。

無罪判決が下された色の3から7までの数字カード一枚につき、カードを持っているプレイヤーは、カードの数字に対応した額のチップを弁護成功報酬として銀行から受け取ります。有罪判決が下された色の場合は、カードの数字だけの額を銀行に支払わなければいけません。

10は告発者を表し、従って利益と損失は逆になります。有罪判決が下された色の場合、10のカードを持つプレイヤーは銀行から10チップを受け取ります。無罪判決なら、10チップを銀行に支払います。

判決まで行かなかった色については、対応するカードの査定は行われません。

最終的に最も多くチップを持っていたプレイヤーがゲームに勝利します。法務官への出世街道に立ちはだかるものはもはや何もありません。

上訴

古代ローマでは、法廷で上訴を行える可能性はありませんでした。それでも上訴ありとする仮定を置くことで、面白い変形ルールを引き出すことができます。

この変形ルールでは、全ての色に対する裁決が出るまでゲームを続行します。その後、次に議長となる順番のプレイヤーはひとつ色を選び、新たに裁判を行うよう求めることができます。ただし、この特例のためには5チップを銀行に支払わなければいけません。上訴を行いたくないという場合は、次のプレイヤーに上訴の権利が移り、以下同様になります。上訴が認められるのはゲーム中一回だけです。この一回の上訴が結審した時点で、ゲームは終了となります。

誰も上訴のために出費したくないと言うのであれば、ゲームは即座に終了します。

どの色を上訴するかという議論は、上訴の権利を持つプレイヤーにとって大変な利益になります。そこに損失を避ける機会を見るプレイヤーもいるでしょうし、成功による利益を失うことに怯えるプレイヤーもいるでしょう。

ここでは、ゲームの本当の最後まで、誰も自分の依頼人が確実に無罪放免になったと確信できません。緊張感が増します!

追放

議長の座にあるとき、多くはその裁判における影響力を用いて、自らの最も強い色の無罪を確実にし、大いに稼ごうとするでしょう。以下で述べる可能性、罪人を追放するという可能性ですが、この可能性は上記のような誘惑に匹敵する儲け話になります。

有罪確定の際、議長は判決が下された色を追放することを宣言できるようになります。当然ここでも、良い議論であるとか、もっと言えば、チップの支払いによって、影響を及ぼすことが可能です。

議長が追放を宣言する際、当のポーンをゲーム盤左隅に置き、手を離した時点で決定は覆せなくなります。このポーンはゲーム終了時までそこに置いておきます。

追放された色は、ゲーム終了時に得点を記録する際、数に入れられません。従って、追放は有罪判決を無力化するものということになります。これは一部のプレイヤーにとっては非常に価値あるものです。他方、成功した告発者のほうは、金になるような反論を行ってくれるでしょう。ローマ人の言ったように、"Pecunia non olet", 「金は臭わない」のです。