アリストテレス『詩学』第十章(松浦嘉一訳)

■■ 第十章 ■■

 筋には単一と複雑との二種がある。筋が模倣する人間の行動は、当然この二種に分れるからである。単一なる筋とは、継続的な、全き一体として、前に述べた如き様式の下に進む所の行動であつて、急転(ペリペテイア)も発見(アナグノーリシス)も無くして、主人公の運命が変化して行く場合を言ふ。複雑なる筋とは、急転もしくは発見、もしくは二つのものに依つて、主人公の運命が移り変つて行く場合を言ふ。急転並びに発見は、筋の結構そのものから生れ、前の出来事の、必然的もしくは蓋然的の結果でなければならぬ。〔さうして、決して単に時の点に於いてのみ、前の出来事のあとに来てゐる丈けではいけない。〕一つの出来事が起るに就いても「これがために」と言ふ場合と「このあとで」と言ふ場合とには、大きな相違がある。